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20144/4

足利ひめたま痛車祭 来場者アンケート調査(第7回の統計調査より)


 

 2013年10月27日に行われた「第7回足利ひめたま痛車祭」に来場された一般参加者280人からアンケート用紙方式で統計をとりました。今回の調査は、 筑波大学 人文学類 五十嵐大悟とNPO法人コミュニケーション・ラボの共同調査です。(以下、文章作成 五十嵐大悟)

アンケートブースを2カ所作って調査しました。(アンケート回収ブースを2カ所設置しました)


 

 参加者全体に対して行ったアンケートでは、来場者の64%が栃木県、21%が群馬県でした。市町村に着目すると、足利が44%であり、ついで太田、宇都宮、佐野が5%程度でした。

 性別は男性が68%、女性が31%でした。男性は20代が最も多いのに対して、女性は10代から30代まで分散していることが特徴的です。男女いずれも10代未満から60代以上まで参加者がありました。初参加は49%で、リピーターが50%を占めています。

 

 

 次回の痛車祭にも、93%が参加したいと回答しており、来場したくないと回答した人は一人もいませんでした。

 これらから、地元市民を中心に幅広い年齢層が参加しており、非常に満足度の高いイベントであることがわかります。後述しますが、ひめたまのキャラクタそのものも足利市民には高い認知度を誇っており、ひめたまが足利市のマスコットキャラクターとして活躍していることを示しています。そしてひめたまの名を冠した痛車祭という多くの市民を巻き込んだイベントの継続的な実施は、しっかりと地域振興が成立していることを示しています。

 

 参加者全体の参加理由としては、友人からが34%と最も高く、ついでチラシ、ウェブサイトが15%程度となっています。チラシというのは、足利市民の回答が多いため、ここでいうチラシは足利市内で配布されていた痛車祭に関するビラのことであると回答者は想定しているだろうと思われ、市内での草の根的な情報発信が功を奏しているということが伺えます。また、渡良瀬川沿いを歩いていたところ目に止まったという回答もあり、目につきやすい立地というのも非常に良い点であると思われます。

 

 参加者全体で痛車祭で楽しみなことにかんして、84%が痛車を楽しみと回答していますが、次点で33%がコスプレが楽しみと回答しており、これは32%が楽しみと回答した飲食よりも高い数値となっています。痛車オーナーだけではなく、イベントに参加した一般市民に関してもコスプレは高い娯楽性を提供していることがわかります。これは、市民および外部から来場したコスプレイヤーが、自身でコスプレを楽しむだけではなく、同時にコンパニオンのように場を盛り上げる効果があるためであると思われます。

 また、痛車祭以外に開催して欲しいイベントとして、アニソンイベントが44%とトップでした。ニコニコ動画やYouTubeなどのような動画共有サイトでアニメソングがより広く楽しまれるようになった背景がある可能性もあります。次いで声優、コスプレイベントが35%、同人誌、イラストイベントが25%程度でしかた(複数回答可)。
キャラクタに関する認知度と、キャラクタ単独のイベントへの参加に関する関係性は、痛車オーナーと同様の傾向がありました。つまり、キャラクタの認知度が高い人ほどよりキャラクタへの親近感が強まり、また親近感が強くなった人ほどキャラクタ単独のイベントにも参加したいと回答していることがわかりました。
 しかし、キャラクタ単独イベントに参加したことのある人はキャラクタイベントに参加したいという傾向が強いものの、行ったことのない人は、機会があれば、という回答が多数を占めています。ここから、まだ参加したことの無い人をキャラクタ単独のイベントに参加させるためには何かしらのきっかけが必要であることが伺えます。単に広報をするだけではなく、本アンケートにおける痛車祭での楽しみなことや、足利市で開催して欲しいイベントの内容に沿うようなイベントを開催することで、足利市の一般市民を巻き込んだ、痛車祭以外のイベントを開催したり、誕生祭への更なる集客効果を見込むことができるかもしれません。
 キャラクタの認知度は足利市に限定すると、痛車祭参加前の段階で45%が良く知っていた、38%が名前は知っていたと回答してます。これは群馬県からの参加者が、よく知っていたと回答したのが28%、名前は知っていたと回答したのが31%と回答したことと比較してみると、足利市内でのキャラクタの認知度が他と比較して高いという事を示しています。

—これまでの調査および痛車祭に関する統計から

 

 私は2年半に渡って足利ひめたまに関して調査を行ってきました。その中で、足利ひめたまの諸活動をどのように捉えるのがよいのだろうかと考え続けて来ました。正直な事を話しますと、当初足利ひめたまは「失敗」したケースなのではないかとも心配していました。しかし「地域振興」という根本的な視点から考えると、決して失敗などしておらず、むしろ大成功を収めていると言っても過言ではないと考えています。

 足利ひめたまがどのように捉えられているかについてを紹介するために、全国各地で行われているアニメに関する観光振興の現状について紹介したいと思います。
 まず、2007年に放送されたアニメ「らき☆すた」のモデルとなった土地に(当初は偶発的に)ファンが押し寄せるといった事例が発生しました。この事例では当該地域の商工会が主導して継続的な町おこしを実施しました。これはインターネットの普及や、SNS(ネット上で相互にコミュニケーションを取るサービス)、動画サイトなどでその動きは広く一般に知られるようになり、マスコミも大きく報道を行いました。そのような中でアニメの舞台を「聖地」、アニメの舞台を観光することを「聖地巡礼」と呼称することもオタクの中では一般的となりました。その後もアニメが発端となって大規模な観光が見られるケースがあり、これらがきっかけとなって2010年代に入るとアニメを活用し、意図的に町おこしに活用する動きが強くなったように思われます。

 オタクを対象にしたマーケティングの背景には2005年にフジテレビ系列で放送されたドラマ「電車男」の影響で、それまでネガティブに捉えられがちだったオタクというものが一般にもある程度理解されるようになったことや、オタクの購買力に市場が注目したことが背景にあるのではないかと思われます。また、マンガやアニメを子供だけでなく大人も消費することがより一般的になったという時代の背景もあるでしょう。
 さて、現在全国各地で行われている、テレビ放送されているアニメを利用した町おこしは、町おこしを必要としている地域……つまり何らかの理由で疲弊している地域……が地域外に住んでいると設定したアニメ視聴者を、主に観光によって来訪させようという動きが強いように思われます。
 このような現在広く行われているアニメによる外部からの集客を期待した観光振興を念頭に考えた時、この視点から足利ひめたまを捉えた場合、地域振興が成功していると言えるのでしょうか。残念ながら、当初は成功しそうであったけれど、今は失敗していると分析されてしまうでしょう。それは足利市以外のオタクにとって「足利ひめたま」というキャラクタの認知度は非常に低く、また、足利へひめたまをきっかけにして聖地巡礼を行う人や、誕生祭などのイベントへ参加する人も同様に非常に乏しいためです。
しかし、この認識は本当に適切なのでしょうか?

 ちょうど聖地巡礼がクローズアップされたのと時期が被るようにして「ゆるキャラ」という概念が登場しました。ゆるキャラの語は2004年頃に漫画家のみうらじゅん氏によって提唱されました。これはもともと、地方の村おこしや地域振興に利用されることを想定した、郷土愛に満ち溢れたメッセージ性を持つ、ゆるいキャラクタについての名称です。こちらは地域振興に利用されることを想定して作られたキャラクタですが、先のアニメによる地域振興と大きく異なるのは、こちらはキャラクタが単独で存在しており、小説やアニメといったものが本質ではない点です。
男性オタク向けの美少女キャラクタを用いた地域振興として「萌えおこし」という概念も存在しており、こちらはアニメに限らず萌えキャラクタ(男性受けする美少女キャラクタ)のイラストを単独で使うようなケースも含まれています。例えば、秋田県のJAうごが2008年より美少女キャラクタを利用した、あきたこまちを美少女イラストでパッケージして販売しているといった事例があります。
 ゆるきゃらは、キャラクタが単独で存在しているという点でJAうごが行った、美少女キャラクタを利用した商品展開に非常に近しく、美少女キャラクタを利用したプロモーションと、ゆるキャラを利用したプロモーションは、キャラクタの内容が異なるだけで構造はかなり近いものがあると考えられます。

 さて、足利ひめたまですが、キャラクタの見た目がアニメキャラクタ風であることから、アニメによる地域振興のケースであると誤解されることがままあります。しかし、ひめたまはあくまでアニメ風の美少女キャラクタを利用した「萌えおこし」であり、特にキャラクタの存在のみを中核とするような、ゆるキャラによる地域振興の構図に近い状況であると考えられます。
 足利ひめたまは新聞報道などからもわかるように、当初はキャラクターに関するイベントに、他の地域からも多くのオタクが訪れてグッズを購入していたという状況がありました。しかし、現在では例えば神社などで開かれるキャラクタの誕生祭に訪れるファンは、足利市を中心とするコアなファンが和気あいあいと過ごすようなものに変容しました。また商工会を中心に、地域の学校などへの広報活動を行ったり、足利市観光のリーフレットにキャラクタを登場させたり、市内へのポスターやのぼりを掲示することで、足利市民ならばどこかで一度は目にしたことがある、地域に受容されたマスコットキャラクターとなったと捉えられます。ここからも、現在のひめたまの構図は、成り行きとしてこうなってしまったのかもしれませんが、全国各地のオタクが足利という土地に集中する構図というよりはむしろ、足利市を中心とした地域で愛される地元密着のキャラクタとして定着しつつあると捉えるほうが自然ではないかと思われます。
 そのような中で、ひめたまを冠して開催されている痛車祭は、痛車オーナーやコスプレイヤーが足利市に集結し、地域住民と一緒に楽しいひとときを過ごすものです。そしてこれが持続的に実施され年々規模を拡大している状況は、地域を盛り上げる企画として大成功していると言えるでしょう。痛車祭は地域密着であるがゆえに、あるいは痛車ユーザーやコスプレイヤーという特定のコミュニティ内で情報が流通するために、外部からではその規模や楽しさは分からないのです。そして足利ひめたまのキャラクタは足利市の中で受容されており、地域のマスコットキャラクターとしてきちんと作用しています。つまり、足利ひめたまを純粋な地域密着の「地域振興」あるいは、ゆるキャラなどと近しい性質を持つような、ご当地萌えキャラを活用した草の根的な「萌えおこし」として捉えたならば、私は足利ひめたまは決して失敗などしていないと考えています。

 オタク受けするキャラクタによる地域振興は、聖地巡礼(アニメの舞台を観光するもの)の事例がクローズアップされているために、観光促進という側面が特に注目を集めていますが、地域振興はそれに集約されるものでは決してありません。そもそもの目的であるところの「その地域を活性化すること」がなされるかどうかが一番大事だろうと私は考えています。

 私の個人的な感覚を書きたいと思います。
 アニメに関する町おこしは「アニメ」を利用したことで、特異な活動であるように思われがちですが、例えば司馬遼太郎の小説のファンが、そのゆかりのある土地を観光し、またその土地の商工会や自治体が作品の舞台であることをPRするようなことと本質的には同じであるように思います。つまりアニメを利用した観光振興は、アニメによってその地域に対する興味や愛着を持たせ、その土地にファンを呼び込もうとするものだと思われるのです。
私自身がオタクなので個人的な体験を話すと、アニメの舞台を訪れた際は、アニメキャラがこの道を歩いたのかななどと考えるとドキドキしてしまいます。しかし、それは私が19世紀のフランスの画家ドミニク・アングルが描いた「トルコ風呂」という油絵に(フランスのルーブル美術館を訪れた際はその本物を飽きること無く眺めてました)憧れ、そして架空のハレムが描かれたものに思いを馳せて、その後トルコのイスタンブールを訪れた際には、かつてのオスマン帝国王宮のハレムやかつての浴場を見学してドキドキしましたが、アニメ聖地巡礼と本質的に等しいものがあると感じました。さらに言えば、以前兵庫県明石市を訪れた際に、源氏物語の明石御前を想像してドキドキした感覚とも等しいと感じます。つまりこれらには架空の、あるいは触れることのできない何か憧れの存在と、場所を通じて触れ合うことができたような喜びが共通してあるように感じられるです。
 アニメを通じて何かを体験する、どこかを訪れる、土地に愛着を持つということはおそらく、ごくごくありふれた体験の一つなのではないかと考えています。最近急速にアニメの市場が拡大したために特徴的に捉えられるようになったのではないかと推測しております。たとえば兵庫県明石市に現在ある源氏物語にちなんだ観光地は、実は江戸時代に明石藩主の松平忠国が源氏物語にちなんで新しく創作したものだったりします。(もし今が江戸時代なら、「絵巻物おこし」「浮世絵おこし」なんてものが各地で行われているかもしれませんね)
 そのため、アニメを利用した観光振興や、あるいは足利市のように萌えキャラ(美少女キャラクタ)を利用した地域振興は、何も特別な、奇異なものではなく、ごくありふれた地域振興の一つのありかたとして考える視点が大事なのではないかと思われるのです。

 最後になりますが、足利ひめたまを始め、地域振興というものは当然ですが地域に密着することで初めて知ることができるように考えています。最初の1年は足利ひめたまを、足利市を、両毛を知ることに尽きました、次の1年でやっと何が行われていて、何を調べれば良いのかが見えてきました。2年間以上継続して足利市を訪れた私を温かく迎えて下さった関係者の皆様、触れ合った沢山の方々、足利や近隣市町村をはじめイベントなどに参加されていた方々に篤く御礼を申し上げます。沢山の方から様々なお話をして頂き、そして沢山の友人ができました。皆様のあたたかさで今日までの研究を行うことができました。やまとやのソースカツ丼おいしかったです。浜田屋のはまたまごも絶品でお気に入りです。

 (足利ひめたま痛車祭 出展者アンケート調査はこちら


※この記事に掲載されている情報は取材当時(2014/04/04)のものです。お気づきの点があれば、「あしかがのこと。」編集部へお問い合わせください。

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