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スサノヲの到来―いのち、いかり、いのり(足利市立美術館)


スサノヲの到来―いのち、いかり、いのり

“スサノヲ”―― この名前を耳にしたことがある人は多いと思います。言わずと知れた日本の神話に出てくる神ですが、皆さんはスサノヲというとどんな神様を連想するでしょうか?
高天原で姉のアマテラスを怒らせ、結果この世の闇を招いてしまった傍若無人で暴れん坊な神様? はたまた亡き母を恋うあまり、ひげ面の大人になっても泣きわめいていたという人間臭い神様? あるいは叡智を尽くして恐ろしいヤマタノオロチからお姫様を救ったヒーロー神?
このように『 古事記』や『日本書紀』などの神話においてスサノヲは様々な顔を見せています。その存在感やイメージは私たち日本人の心に無意識に息づいており身近な神様の一人といえるでしょう。

足利市立美術館で現在開催されている『スサノヲの到来 ―いのち、ひかり、いのり』。
この企画展では多面的な表情を見せるスサノヲの表象を、太古から現代に至るまで、7つの章に分けてたどっていきます。
今回は各章について少しずつご紹介したいと思います。

【序章】 日本神話と縄文の神々
「スサノヲといえば神話の中の存在であるはずなのに、なぜ縄文時代の土偶や土器の…字が?」

想像力の乏しい私はそんな疑問を感じましたが、担当学芸員の方によると縄文時代の信仰の中にはスサノヲのはたらきと思われる存在が見られ、それが蛇や月の文様として、人々に食をもたらす土器などに表象されているのだそうです。


【第1章】 神話のなかのスサノヲ

ここでは古今の絵や木版・神像・面・作品化されたスサノヲをたどります。荒ぶる姿・堂々たる神としての姿・恐ろしい姿などスサノヲの多くの表情を見ることができます。足利市にある常念寺所蔵の「素戔嗚尊・稲田姫尊像」も展示されていますが、荒々しさから一転、妻と並ぶ穏やかなたたずまいのスサノヲが見られます。

 

 



【第2章】 スサノヲの変容

日本神話の中から生まれたスサノヲは神仏習合により変容し、外来の神ともつながっていきます。その一つが「牛頭天王(ごずてんのう)半跏像」牛頭天王とはもとはインドの神です。これが仏教に取り入れられ、やがてスサノヲと結びつき同一神となったものだということです。他にもスサノヲと関わりのある神仏が展示されています。神仏習合という現象を興味深く感じながら観賞しました。

【第3章】 うたとスサノヲ
“八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を”

これはスサノヲが妻をめとった喜びを表現した歌で、日本で初めて作られた和歌です。荒ぶる神スサノヲは何と和歌の創始者という側面も持っているのです。この章では地上に歌をもたらした文化神としてのスサノヲをたどることができます。

【第4章】 マレビトたちの祈りとうた
アマテラスにより高天原を追われたスサノヲは、さすらう神となります。そして太古より人々は諸国を巡り歩く旅芸人やさすらいの人々を”マレビト”と呼び、自分の居住地のけがれや厄災を漂泊の身であるマレビトに託して清めてきたそうです。マレビトとはそのままスサノヲを思い起こさせるものなのです。この章では諸国を巡り歩いた歌人や芸術家の作品が展示されています。彼らは必ずしも”スサノヲ”について直接言及しているわけではありませんが、その作品にはスサノヲのはたらきが見出せるそうです。

円空の「大黒天立像」はかわいらしい木像で親しみが感じられます。大黒天とは、スサノヲの息子であるオオクニヌシと集合した外来の神です。円空がスサノヲを意識していたかどうかは分かりません。しかし諸国を行脚し仏像を掘りつづけた円空が大黒天像を無意識に生み出したこと。ここにはスサノヲのはたらきがあるのかもしれませんね。


【第5章】 平田篤胤の異界探求

幕末期、日本は海外の列強により国家的侵略の危機にさらされます。そしてこれを乗り越えるために日本人の魂の柱を立てることを提言し、それまで邪神とされていたスサノヲを尊い神としてその価値を浮上させたのが平田篤胤です。スサノヲは危機意識の基に想起される神でもあります。「五嶽山真形文」は平田篤胤に影響を与えた中国の護符ですが、篤胤はこれを地球規模でとらえ、人間の言語が発生する以前のプレテキストとして解釈したそうです。とてもスケールの大きな話ですが、この護符はとてもモダンな雰囲気でアーティスティック。「すっごくおしゃれ!」と思ってしまいました。


【第6章】 スサノヲを生きた人々―清らかないかり

自然からの恵みを受けて生きる人間は、ときにその恩恵を忘れ自然に抗う行為に走ります。すなわち人間が何か大事なことを忘れた時、スサノヲ的発動が起こり、スサノヲと同じ心を持つ人は清らかな怒りを発します。この章では”スサノヲ的心情を生きた人々”として田中正造・南方熊楠・折口信夫などをたどります。

【第7章】 スサノヲの予感

最後の章では現代の作家たちが取り上げられています。スサノヲの到来を感得した芸術家たちが無意識に生み出した作品の数々。これらはどれもスサノヲ的なパワーが満ちています。太古からたどってきたスサノヲ。その到来は3.11を経て現在にまで至ります。最終章は刺激に満ちたゾーン。大きな衝撃を受けました。

ポスターと展示のタイトルに惹かれてこの企画展を訪れましたが、足を踏み入れるとそこには縄文時代の土器・平安時代の仏像・古典書に現代アートと、時代もジャンルもばらばらに見える展示物が混在しています。
「これは難しいぞ。芸術に造詣のない私には理解できないかもしれない。」
そんな不安に駆られました。しかし章を追うにつれ少しずつ気持ちが高揚し夢中になり、最終章では胸のドキドキがおさまらない。最後は頭がスッキリとし、気持ちが浄化されていくような不思議な感覚に陥り、しばらくスサノヲの余韻に浸っていました。

企画展『スサノヲの到来』は最初から最後まで一貫したストーリーがあります。それは見る人それぞれに伝わってくるメッセージです。天変地異や政情不安、誰もが不安や危機を感じながら暮らし、決して平穏な世の中とは言いがたい現代。そんな時代を生きる私たちにスサノヲは常に語りかけているのかもしれません。まずは難しいことを考えず、リラックスして館内を一巡してみてください。最後にスサノヲのはたらきが起こるはずです。


■スサノヲの到来―いのち、いかり、いのり

期間:2014年10月18日(土)~12月23日(祝)
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:月曜日(ただし11/3、11/24は開館)
11/4(火)、11/25(火)
観覧料:観覧料:一般800(640)円/大学・高校生600(480)円/中学生以下無料

※期間中、学芸員によるギャラリートークなど関連プログラムも行われています。


※この記事に掲載されている情報は取材当時(2014/11/20)のものです。お気づきの点があれば、「あしかがのこと。」編集部へお問い合わせください。

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Kang Haruko

Kang Haruko

元韓日映像翻訳者。通訳案内士(韓国語)。夫は韓国人で国際結婚家庭です。 東京、ソウル、大阪での暮らしを経て2013年約20年ぶりに、故郷足利に戻って来ました。足利の歴史やアートの世界に興味があります。

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